子育て世代エンジニアの挑戦:地方移住で実現した家族との時間とキャリアの両立
はじめに
初めまして。私は40代のシステムエンジニアで、妻と小学生の子供が二人おります。約3年前、私たちは長年住み慣れた都市部を離れ、自然豊かな地方都市へ移住し、私自身はリモートワークを継続しています。この決断は、私たち家族にとって大きな転機となりました。
きっかけは、都市での慌ただしい生活に漠然とした閉塞感を覚えたことです。通勤に片道1時間半をかけ、帰宅すれば子供たちは寝静まっている日が多く、家族との時間が十分に取れていないことに焦りを感じていました。システムエンジニアという職種柄、リモートワークの可能性が現実的になってきたこともあり、地方移住という選択肢が具体的に見え始めたのです。特に、子供たちが成長する中で、自然の中で過ごす時間や、地域との繋がりの中で育つことの価値を強く意識するようになりました。
移住先の選択と決め手
移住先を検討する上で、私たちはいくつかの重要なポイントを挙げました。まず、最も重視したのは「子育て環境」でした。自然が豊かであること、公立の小中学校の雰囲気、そして地域の子育て支援策の有無です。次に「医療体制」は、小さな子供がいる家庭にとって不可欠な要素でした。さらに、万が一の出社や出張に備え「主要都市へのアクセス」が良いことも考慮しました。最後に「生活費」と「安定したインターネット環境」も外せない条件でした。
情報収集は、自治体が主催する移住フェアへの参加から始めました。そこでいくつかの候補地に絞り込み、週末を利用して家族で「お試し移住」を何度か経験しました。実際にその地域に滞在し、スーパーでの買い物、公園での子供たちの様子、地元の住民との簡単な会話を通じて、生活のイメージを具体化していきました。
最終的に現在の移住先を決めたのは、穏やかな気候と豊かな自然、そして子育て支援に力を入れている点が決め手となりました。また、たまたま見つけた築浅の物件が、広い庭付きでリモートワーク用のスペースも確保できる間取りだったことも、運命的な出会いと感じました。
移住前の準備と計画
移住は単なる引っ越しとは異なり、多岐にわたる準備が必要です。最も時間をかけたのは、会社との調整でした。幸い、私の勤務先はリモートワークに前向きな企業でしたが、それでも地方への完全移住は前例が少なかったため、就業規則や人事評価、交通費や手当などについて具体的な取り決めを交わす必要がありました。会社から貸与されるPCやモニターなどの機材はそのまま利用できましたが、自宅のネットワーク環境はより安定したものを構築するため、光回線の引き込みを事前に手配しました。
家族関連では、子供たちの転校手続きや、移住先の保育園・学童の空き状況の確認は早めに行いました。また、夫婦で移住先の病院や診療所の場所、かかりつけ医候補をリストアップし、緊急時にも対応できるよう備えました。行政手続きでは、住民票の移動はもちろん、運転免許証の住所変更、郵便物の転送手続きなども忘れずに行いました。
今振り返ると、もっと時間をかけて地域のコミュニティ活動や、子育て世代の移住者コミュニティを事前にリサーチしておくべきだったと感じています。移住後、地域に溶け込む上での助けとなったはずです。
移住後の生活
移住後の生活は、想像以上に変化に富んだものでした。まず、住環境は格段に向上しました。都市部では考えられない広さの戸建てに住み、子供たちは庭で自由に遊び、私も休憩時間に庭いじりをするようになりました。
交通手段は、やはり車が中心です。公共交通機関は本数が少なく、自家用車がないと生活は成り立ちません。当初は戸惑いましたが、慣れてしまえば行動範囲が広がり、週末は家族で少し遠出をして地元の温泉や観光地を楽しむようになりました。
買い物は、大型スーパーが車で15分ほどの場所にあり、生鮮食品の購入には困りません。一方で、専門的な品揃えの店舗は限られるため、オンラインストアの利用が増えました。医療機関も、小児科や内科はいくつかありますが、総合病院は少し離れた場所にあります。幸い、これまでのところ大きな問題は発生していません。
子育て環境については、概ね満足しています。子供たちは学校の授業で地域の自然に触れる機会が多く、放課後も友人と自然の中で遊ぶ時間が増えました。学校の先生方も地域との連携を大切にしており、温かい雰囲気の中で学べていると感じています。地域の運動会や夏祭り、神社の清掃活動など、これまでは無縁だった地域コミュニティの行事にも積極的に参加するようになりました。最初は戸惑いもありましたが、地域の方々が温かく受け入れてくださり、徐々に馴染んでいきました。特に、子供を通じて知り合いが増えたことが、地域に根付く上で大きな助けとなりました。
リモートワークの実践
リモートワークは、移住後も順調に継続できています。自宅には独立した書斎を設け、モニター2台と高性能なPC、そして安定した光回線を導入しています。オンライン会議にはノイズキャンセリング機能付きのヘッドセットを使用し、快適なコミュニケーションを心がけています。
仕事の継続性に関して、移住前は漠然とした不安がありましたが、杞憂に終わりました。プロジェクト管理にはAsanaやJira、コミュニケーションにはSlackやMicrosoft Teams、Web会議にはZoomやGoogle Meetといったツールを活用することで、東京の同僚との連携もスムーズに行えています。定例のオンライン会議に加え、雑談用のチャンネルを設けたり、定期的に「オンライン飲み会」を開催したりすることで、偶発的な情報交換やチームビルディングも意識しています。
時間の使い方は劇的に変化しました。通勤時間がなくなったことで、朝は子供たちと一緒に朝食をゆっくり取り、出かけるのを見送る時間ができました。午後の休憩時間には軽く散歩に出かけ、気分転換を図ることもあります。仕事が終わればすぐに家族の元へ戻れるため、以前より格段に家族との時間が増え、精神的なゆとりも生まれました。集中力が切れてきたと感じたら、一旦手を止めて家事をするなど、オンとオフの切り替えを柔軟に行えるのもリモートワークの大きなメリットだと感じています。
直面した課題と解決策
もちろん、移住とリモートワークの生活は順風満帆なことばかりではありませんでした。
仕事面では、都市部のオフィスにいる同僚との「情報格差」を感じることがありました。何気ない雑談から生まれるアイデアや、プロジェクトの細かなニュアンスが伝わりにくいこともあります。これに対しては、定期的にオンラインで同僚と雑談の時間を設けたり、月に一度は東京に出張して直接顔を合わせる機会を作ったりすることで対応しています。また、地域のコワーキングスペースやカフェを利用することで、気分転換を図り、適度な人との交流を保つように心がけています。
生活面では、移住当初は近所付き合いの「距離感」に戸惑いました。都市部よりも隣人との交流が密であり、最初はプライベートに踏み込まれるように感じることもありました。しかし、地域の行事に積極的に参加し、自分から挨拶を交わしたり、困っていることがあれば声をかけたりする中で、徐々に信頼関係を築くことができました。今では、おすそ分けをいただいたり、子供たちの送迎を助けてもらったりと、温かい交流があります。
家族との関係では、私が常に家にいることで、妻との役割分担や子供たちの生活リズムに変化が生じました。最初は互いに戸惑いもありましたが、家族会議を定期的に開いて意見を出し合い、家事の分担や子供との時間の過ごし方について具体的なルールを決めることで、徐々に落ち着いていきました。例えば、仕事中は子供たちが私の書斎に入らないルールを設け、仕事が終わった後は家族全員で過ごす時間を大切にしています。
収入面では、基本給に変化はありませんでしたが、都市部の高い家賃や交通費が不要になったことで、実質的な可処分所得が増えました。また、地域の移住補助金や子育て支援策も活用できたため、経済的な不安は大きく軽減されました。
移住・リモートワークを経験して感じること、得られたもの
地方移住とリモートワークを実践して、最も強く感じているのは「ワークライフバランスの劇的な改善」です。通勤時間がゼロになったことで生まれた時間で、趣味の読書や運動をする余裕ができました。何よりも、子供たちと過ごす時間が増え、彼らの成長を間近で見守れる喜びは、何物にも代えがたいものです。精神的なゆとりが生まれたことで、仕事にもより集中できるようになり、結果として生産性も向上したように感じています。
また、都市生活では得られなかった「地域との繋がり」や「自然との共生」も大きな財産です。季節の移ろいを肌で感じ、地域の新鮮な食材を味わい、地域の人々と交流する中で、これまでの価値観が大きく広がるのを感じています。子供たちも、地域の大人たちに見守られながら、たくましく成長しているようです。
キャリアパスにおいては、リモートワークが当たり前になったことで、場所にとらわれずに多様なプロジェクトに挑戦できる可能性が広がりました。将来的には、地域の課題解決にITの力で貢献するといった新しい働き方も視野に入れています。
これから移住を考える人へのアドバイス
もしあなたが地方移住とリモートワークに関心をお持ちでしたら、私の経験が少しでもお役に立てれば幸いです。
まず、「なぜ移住したいのか」という動機を明確にすることが非常に重要です。漠然とした憧れだけでなく、具体的な目的や課題意識を持つことで、移住後のギャップを乗り越える力になります。そして、その動機を家族全員で共有し、十分な話し合いを重ねてください。家族の理解と協力がなければ、移住生活は決して成功しません。
次に、徹底した「事前準備」を心がけてください。インターネットでの情報収集はもちろん、可能であれば「お試し移住」を強くお勧めします。実際に現地に足を運び、現地の空気を感じ、地元のスーパーや病院、学校の周辺を歩いてみることで、リアルな生活をイメージできます。地域の移住支援制度や補助金についても、積極的に情報を集めてください。
最後に、完璧を求めすぎないことです。移住後の生活は、思い通りにいかないことも多々あります。予期せぬトラブルや、都市部とのギャップに直面することもあるでしょう。しかし、それらを柔軟に受け止め、試行錯誤しながら解決していく姿勢が大切です。地域の文化や習慣を尊重し、積極的に地域の人々と交流することで、新たな発見や喜びがきっと見つかります。
まとめ
地方移住とリモートワークは、私たち家族にとって、これまでの働き方や生き方を見つめ直す貴重な機会となりました。不安や課題もゼロではありませんでしたが、それらを乗り越えることで、家族との絆を深め、より豊かな生活を手に入れることができたと感じています。
都市部でのキャリアを諦めることなく、地方で家族との時間を大切にしたいと考える方にとって、この「新しい働き方」は十分に実現可能です。この記事が、あなたの未来の選択肢を広げる一助となれば幸いです。